コメモ。

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「4K」と「小型化」に活路を見出したパナソニックはデジカメ業界で生き残れるのか

Panasonic ミラーレス一眼カメラ ルミックス G7 ボディ 1600万画素 ブラック DMC-G7-K

パナソニックがデジタルカメラ「LUMIX DMC-G7」6月25日に発売すると発表しました。

たいていの人がニコンかキヤノンを買う中、パナソニックのカメラはどうもマニアックな印象が拭えません。個人的にはパナソニックのカメラもレンズも愛用しており、すばらしい製品を生み出すメーカーだと思っているのですが、カメラメーカーとしての歴史が浅いせいか、どうしてもカメラファンからは軽く見られがちなようです。

せっかくなので、パナソニックのデジカメの魅力と業界での立ち位置、そして今後の展開について書いてみたいと思います。


パナソニックのカメラはあまり人気がない

いきなりですが、パナソニックのデジカメはあまり人気がありません

カメラ業界、特に一眼カメラではキヤノン、ニコンがシェアの大半を持っています。その人気の差は価格.comあたりのレビュー数を見れば一目瞭然です。続いてソニー、そしてオリンパス、ペンタックスあたりが続き、パナソニックはさらにその下で富士フイルムと争っています。

これは、以前に写真共有サイトで調べたシェアからもわかります(写真共有サイトなので一般のシェアとは微妙に違うとは思いますが)。

cafewriter.hatenablog.com

じゃあパナソニックのカメラがダメなのかというと、そんなことはなく、個人的に使っている印象では他のメーカーに劣らないどころか、優れた点も多々あるすばらしいメーカーです。

なぜ売れないのか。

カメラメーカーとしてのブランド力

大きな理由はブランドです。一眼カメラに大金を落とすカメラマニアにとって、パナソニックはカメラメーカーではなく、家電メーカーです。詳細は割愛しますが、パナソニックがカメラに参入したのは比較的最近のことで(といってももう10年以上は経っていますが)、何十年もカメラを愛してきたようなベテランにとってはヒヨッコなわけです。

カメラにお金を落とすのは、50代以上のシニア層がボリュームゾーンで、そうなるとどうしてもパナソニックは立場が弱くなります。カメラとしての機能に差はなくとも、これまで積み上げてきた歴史に差があるからです。

また、使う人が少なければ、ネットにも情報がなかなか出てきません。結果、「皆が使っているメーカーでいいや」となって、ますます差が開いてしまうのです。

ということで、残念ながらパナソニックはいまいちカメラ業界では地味な存在です。

しかし、そんなことはパナソニック自身が一番よくわかっています。

正攻法でシェアをとるのが難しいのであれば、違う方向から攻めるしかない。

パナソニックが選択したのは、「動画」というフィールドでした。

動画ならパナソニックというブランド

パナソニックが目をつけたのは、「一眼動画」です。パナソニックはデジカメこそ新参者ですが、ビデオカメラの分野においては長い歴史と確かな実績を持ったメーカーです。デジタルカメラはある時期から動画機能を搭載するようになり、現在ではフルHDは当たり前。ビデオカメラ顔負けの撮影もできるようになりました。また、ビデオカメラにはない「背景をボカした動画」が撮れるのも一眼動画ならではの人気のポイントです。

パナソニックは早くから、この「一眼カメラで動画を撮る」ところに目をつけ、自らがブランドを持つ「動画」の分野をデジタルカメラと融合させる試みに挑戦してきました。

その結果、カメラファンの間でも、一眼でビデオを撮るならまずパナソニックの名前が挙がるまでに地位を向上させてきたのです。

では、具体的にパナソニックの何が「動画に強い」のか。

わかりやすいところで言うと、「30分制限の有無」が挙げられます。

現在、ほとんどのデジタルカメラでは、連続して30分以上、動画撮影をすることができません。マニュアルを読むと書いてありますが、たいてい29分59秒でストップするようになっているはずです。

これは別に技術的に不可能なのではなく、あえて30分にならないよう制限をかけているのです。

なぜなら、30分以上連続で動画を撮れるカメラは、国外に輸出する際、「ビデオカメラ」の扱いになり、関税が高くなってしまうからです。

そこで、ほとんどのメーカーは連続撮影時間に29分59秒の制限を設けています。ここからわかるのは、ほとんどのメーカーにとって「動画撮影機能はあくまでもサブ」ということ。あるいは、「30分連続で動画撮影するようなシチュエーション」はあまりないだろうと考えているのかもしれません。

しかし、パナソニックは徹底してこの30分制限を取り払っています。もちろん、バッテリーがそもそも30分連続でもつのかという問題はありますが、バッテリーがもつ機種に関しては30分制限は課せられていません。

また、最近ではデジカメでも高画質な動画が撮影できるようになりましたが、パナソニックはさらにその上をいく4K動画撮影機能を早くから実装。最上位機種であるGH4、高級コンパクトのLX100、高倍率高級デジカメのFZ1000、そして今回発表したG7で4K動画の撮影を可能にしています。

パナソニックが動画において優れているのは、センセーショナルな4Kだけではありません。詳細は割愛しますが、パナソニックのデジカメ、特に最上位機種であるGH4はプロの動画撮影にも耐えうる様々な機能が搭載されています。単に「フルHDが撮れる」だけなら、今となっては他のミラーレスや一眼レフで十分ですが、細かく動画品質を追求していくとやはりパナソニックが有利なのです。

小型化が得意なパナソニック

パナソニックは、ソニーと並んで「小型化」がもっとも得意なメーカーです。ここは「家電メーカー」と揶揄されている2メーカーの面目躍如といったところ。パナソニックとソニーは、バッテリーを犠牲にすることもなく、他のカメラメーカーよりも小型化することに長けています。

その実力を発揮してカメラファンを驚かせたのが、2013年に発売された超小型ミラーレス「GM1」。

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Via camerasize.com

同じマイクロフォーサーズでもっとも小型だったオリンパスのPEN E-PM2をさらに上回る手のひらサイズのボディと、それに合わせて小型化された標準ズームレンズは、多くのカメラファンを驚愕させました。

このGM1はパナソニックにとってもかなりの自信作だったようで、大々的なキャンペーンを展開。売上目標に達したかどうかはわかりませんが、その後も大きさをキープしながらファインダーを搭載したGM5や、カラーリングを変えた後継機種のGM1Sなどを継続して発売しているところを見ると、それなりの手応えはつかんでいるように思います。

4Kを活かした新たな撮影スタイル「4K PHOTO」を提案

動画では確かなブランド力を持ちながら、静止画ではいまいち存在感を出せていないパナソニックですが、何も対策を打っていないわけではありません。

静止画においては、得意の4Kを活かした「4K PHOTO」という撮影スタイルを提案しています。

これは、約800万画素で撮影できる4K動画を活かして、「動画で撮っておいて、後から好きな瞬間を静止画で切り出す」という手法のこと。「シャッターを切る」という写真の楽しみをガン無視した身も蓋もないスタイルのため、古いカメラファンには戸惑いの声も見られますが、「簡単に一番いい瞬間を撮れる」という点では確かに便利です。

まだまだメジャーなスタイルにはなっていませんし、後から瞬間を選ぶのはちょっと面倒なので、現在の撮影スタイルに完全に置き換わるとは思えません。

しかし、オートフォーカスの進化や、自動切り出しなどの技術が発達すれば、8K(約3600万画素)が普及する頃には、メジャーな撮影スタイルの一つになっている可能性もあります。

いずれにしても、キヤノンやニコンに静止画分野で真っ向からぶつかっても勝ち目はありませんし、パナソニック自身もそのことをよくわかっているからこそ、「4K PHOTO」に賭けているのだと思います。

パナソニックの商品展開から見る今後の展望

「動画」と「小型化」がパナソニックならではの長所であるということを踏まえて、今後どういった展開を狙っているのかを予想していきたいと思います。

G7が発表されたことで、パナソニックの狙いはわかりやすくなってきました。

まず、パナソニックの商品ラインナップをざっくり説明しましょう。

まず、パナソニックのフラグシップモデル(最上位機種)であり、静止画、動画共に最強クラスのデジカメ「GH4」が君臨しています。

Panasonic ミラーレス一眼 ルミックス GH4 ボディ ブラック DMC-GH4-K

Panasonic ミラーレス一眼 ルミックス GH4 ボディ ブラック DMC-GH4-K

発売から1年を経て、比較的安くなってきていますが、静止画と動画のハイブリッド機としては未だに他社の追随を許さない最高のカメラです。4K撮影機能の他、「DFD(空間認識技術)」を搭載しており、動画も静止画も高いレベルでまとまっています。

このGH4を頂点として、パナソニックは「動画」方面と「写真」方面に、それぞれミドル機を展開しています。

動画に強いのが、今回発表されたG7。4K撮影機能と「DFD」を搭載し、それ以外に関してもほぼGH4と同等クラスの機能を盛り込んできています。ポジションとしてはミニGH4で、そこまで本格的な動画撮影はしないけれど、動画と静止画を両立させたい層を狙っているものと思われます。

一方で、静止画に特化したシリーズが「GX」です。

現在は2年前に発売された「GX7」が最新機種ですが、そろそろ後継機の発表も噂されています。

GX7の特徴は、4Kを搭載せず、その代わりにボディ内手ぶれ補正を搭載していること。また、本体もGシリーズに比べるとコンパクトです。

ポジションとしてはGシリーズと同クラスですが、GXは動画ではなく、従来のデジカメファンに喜ばれるような静止画に特化したカメラを狙っている印象があります。そのため、4Kを外して、パナソニックのデジカメとしては唯一、ボディ内手ぶれ補正を搭載しているのでしょう。ボディ内手ぶれ補正があると、オリンパスのレンズも手ぶれ補正つきで使えますから、撮影の幅が広がります。

後継機がこの方向性で来るかどうかはわかりませんが、Gシリーズが動画方向に強化されたことを考えると、GXシリーズは静止画方向を強化していく可能性は十分にあります。

GシリーズとGXシリーズがミドルクラスのカメラなら、初心者向けエントリーモデルとなるのが、GMシリーズとGFシリーズです。

GMシリーズは4KやDFDなどのこだわりの機能を削ることで、小型化したシリーズ。これはこれでパナソニックにしかできない分野ですから、おそらく今後も継続して発売してくるでしょう。

そのGMシリーズに、自撮り液晶や美肌モードなど、女性向けの機能を盛り込んだのがGFシリーズ。

まとめるとこんな感じです。

【フラグシップ】
GH4

【ミドル】
G(動画向け)
GX(静止画向け)

【エントリー】
GF(女性向け)
GM(小型特化)

ちょっと前までは、どれが誰向けなのかわかりにくいラインナップになっていたので、ずいぶんすっきりと整理されました。

パナソニックはここ数年、特にGMの発売あたりから、自らのポジションをしっかり把握し、「動画」と「小型化」という得意分野で戦う姿勢を見せてきています。

今までと同じ分野でキヤノンやニコンとまともにぶつかっても勝ち目はありませんから、おそらくこの戦い方は正解でしょう。

フィルム時代ならパナソニックがキヤノンやニコンにブランドで勝ることは永久になかったでしょうけど、スマホやGoPro、ドローンなどの登場で写真の楽しみ方が大きく変わりつつある今、10年後の勝者が誰になっているのかはわかりません。