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ニコンの新製品一眼レフカメラ「D750」はなぜ一部のユーザーに叩かれたのか

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ニコンから一眼レフカメラの新製品「D750」が発表されました。

とても良いカメラだと思うのですが、このD750が一部のニコンファンから怒りを買っているようなのです(あくまで一部ですが)。なぜD750は叩かれたのか、事情を知らない人のためにざっくりと解説してみたいと思います。

 

ニコンとキヤノン、2大カメラメーカーの対立構造

まずはニコンとキヤノンの対立構造を説明します。ご存じの方は読み飛ばしてください。

ご存知の通り、ニコンとキヤノンはデジカメ業界のシェアを分け合う2大メーカーです。特に一眼タイプ、すなわちレンズ交換式のシェアは「キヤノン:ニコン:ソニー:その他=5:3:1:1」で、ニコンとキヤノンだけでほとんどのシェアを持っています(ただし、一番売れているのはやはりキヤノンです)。また、プロに支持されているのも圧倒的にこの2大メーカーです。

つまり、ニコンとキヤノンは好敵手なのです。

それを裏付けるかのように、ニコンとキヤノンはよく似たタイミングでよく似た立ち位置のカメラを発売しています*1。これは製品戦略上、そうなってしまうということもあるのですが、やはり「相手が出すなら出さないわけにはいかない」ということもあるのでしょう。放っておくと、相手のカメラがターゲットにしている層をごっそり持っていかれるおそれがありますからね。「うちにも同等以上のカメラがありますよ」とアピールすることはとても大切です。

ニコンとキヤノンの製品ラインナップ

さて、そんなニコンとキヤノンの現在の製品ラインナップを見てみましょう。

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型番が並んでいてわかりにくいと思いますが、これはざっと見るだけで大丈夫です。

「プロ機」とか「ハイアマチュア機」とかはカメラのグレードを表し、基本的に上の方がグレード高めです。ただし「APS-Cハイエンド」は「ハイアマチュア機」と「エントリー機」の間かもしれません。このあたりの格付けはとりあえず本題には関係ないのでおいておきます。

で、()内はそのカメラの発売日を表しています。こうして見ると、ニコンの上3つはキヤノンよりもかなり新しいのですが、これは「ニコンは2年ごとにマイナーチェンジ版を発売するが、キヤノンは出さない」という両社の戦略の違いによるものです。

実際にはニコンもキヤノンと同じく、2012年のタイミングでプロ機、ハイアマチュア機、エントリー機を発売しているので、やはり両社の発売タイミングは非常に近いものがあることがわかります。

さて、今回注目すべきは、ここのラインです。

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「ハイアマチュア機」。

ここに、今回のD750が一部ファンから批判されている理由が存在しています。

D700の呪い

ニコンは2014年にD810を発売していますが、前述した通り、D810は2年おきに発売されるマイナーチェンジ版です。実際は2年前の2012年にD800(E)というカメラが発売されており、立ち位置としてはこいつがキヤノンのハイアマチュア機である5Dmark3のライバルとなるカメラです。

で、このニコンD800(E)と、キヤノン5Dmark3には当然、前モデルとなるカメラが存在します。

それが、ニコンD700(2008年7月25日発売)と、キヤノン5Dmark2(2008年11月29日発売)です。

どちらも名機と呼ばれたデジカメであり、2大メーカーのハイアマチュア機として、多くのユーザーを獲得しました(特に5Dmark2は一眼ムービーを定着させたエポックメイキングな製品です)。

しかし……。

5Dmark2が5Dmark3に引き継がれていったにも関わらず、D700の方はその後6年間も後継機が登場していなかったのです。

「え、D800(E)が後継機じゃないの?」と思うかもしれませんが、そこは微妙なところなのです。

なぜなら、D700が1200万画素だったのに対し、D800(E)は一気に3600万画素まで上げており、まるで性格の違うカメラになっていたからです。

細かい説明は割愛しますが、画素数は多ければ多いほど良いというものではなく、むしろ少ない方が良い面も多々あります。たとえば風景写真など緻密な描写が必要とされる場面では高画素の方が有利ですが、スポーツなど連写を必要とする場面では、低画素の方がデータ容量が少なくて済んだり、カードへの記録時間も短縮できたりと有利な点があります。また、同世代のカメラであれば、画素数が少ない方が暗所での撮影に有利(ノイズが少ない)という傾向もあります。

つまり、当時としてもそれほど多くない1200万画素のD700を使っていたユーザーにとって、いきなりデジカメ業界最高クラスの3600万画素へと進化したD800(E)はまったく用途も性格も異なる製品であり、後継機として認めたくない部分があったというわけです。

ちなみにD700の1200万画素という数字がどこからきたかというと、当時のニコンのプロ機であるD3です。60万円はするD3が買えないアマチュア向けに、プロ機D3のイメージセンサーをハイアマチュア機に搭載したカメラがD700だったのですね。なので、D700は、いわば「お手軽な値段でプロ機の性能が味わえるカメラ」という立ち位置だったのでした。

この「D800(E)がD700の後継機か否か」という部分についてはニコン自身も否定していたか、曖昧に濁していた気がします(インタビュー内容をはっきりとは覚えていないのですが)。

……ということで、プロ機D4、ハイアマチュア機D800(E)など新製品が続々登場する中、D700ユーザーは長い暗黒期へと突入することになりました。

D600ユーザーの受難

そんな2012年、ニコンのラインナップに新しいラインが加わりました。フルサイズエントリー機となるD600の登場です。

もしかしてこれがD700の後継機!? ……かと思いきや、そんなことはまったくなく、D600はD700やD800(E)よりもさらにお手軽に買えるフルサイズ入門機としての立ち位置の製品でした。入門機だけにスペックはさほどでもなく(世代の差でD700より優れた点は多々ありましたが)、カメラとしての造りもいかにもエントリー機といったクオリティで、とてもハイアマチュア機であるD700ユーザーが後継機として認められるものではありませんでした。

このD600ラインの追加に、D700ユーザーはさらにやきもきさせられます。

「もしかして、いやもしかしなくても、ニコンはもうD700ラインを捨てるつもりなのでは……」

半ば諦めてD800(E)やD600へと移っていくD700ユーザー。

そんなとき、今度はD600ユーザーに思いもよらぬ災難が降りかかります。

D600のイメージセンサーに、ダストが大量に付着する不具合があることが判明したのです。

一応、ダストはセンサーをクリーニングすればとれるとはいえ、決して安くない買い物で起きてしまった不具合に、D600ユーザーの多くががっかりさせられました。この問題は中国をはじめとする世界中のニコンユーザーにも波紋を呼び、大きな問題となります。

その後、ニコンはD600の無償修理を決定するのですが、それとは別にとったやり方が、D600発売からわずか1年で後継機であるD610を発売する、というものでした。

エントリー機とはいえ、フルサイズ一眼レフが1年程度でモデルチェンジした事実はさらなる波紋を呼ぶことになります。

しかも、D610はD600とほとんど同じスペックでしたからなおさら「なんでこれを出したの?」感が強かったことを覚えています。

ユーザーの間では、「D600に不具合があったから、ダスト問題を解消した後継機を早急に発売して事態の収束を図ろうとしているのでは」という憶測がまことしやかに語られるほどでした。

そんなD610問題もだいぶ落ち着いてきた2014年8月、とあるカメラがニコンからまもなく発表されるという噂が流れます。

それこそが、冒頭のD750でした。

なぜD750は叩かれたのか

話がやっと現在へ戻ってきました。

噂で流れたD750のスペックは、D700ユーザーがまさに待ち望んでいたものでした。

D800(E)ほど多すぎない2400万画素という画素数や、秒速8コマの高速連写といったスペック(噂)は、D700ユーザーの期待を煽るのに十分なものでした。加えて、D750というネーミング。材料はそろった! D700の正当な後継機、D750がいざお目見え!

……ところが、先日発表になったD750は、そんなD700ユーザーの期待をまたしても裏切るものだったのです。

なぜかというと、まずは噂よりもスペックが低かったこと。

画素数こそ2400万画素と噂通りでしたが、連写スピードは8コマではなく、秒速6.5コマ。さらに、シャッタスピードの上限は1/4000と遅めで、AF-ONボタンもなし、その他のスペックも上級機であるD810ではなく、どちらかといえばエントリー機であるD610よりの機種に仕上がっていたのです。

さらに、ボディの造りもD700ユーザーには不満だったようです。

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たとえばここ。モードダイヤルが付いているのが見えますが、これ、実はニコンのカメラではエントリー機か、ミドルクラスの一眼レフにしか付いていません

プロ機であるD4S、ハイアマチュア機であるD810、APS-CハイエンドであるD300Sにはモードダイヤルではなく、

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こういうボタンが付いています。そして、大事なのは、D700もこのタイプだったということです。

また、もうひとつ。

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D750のファインダーですが、ご覧の通り四角(というか台形)になっていますよね。

ところが、これもD4SやD810といった上級機では、

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ご覧の通り、丸型なんですね。これもまた、上級機であることの証です。そして……もちろん、D700も丸型でした。

つまり、やっとのことでD700の後継機が出てきたと思ったら、噂よりもスペックが低かったことと、ボディのクオリティが上級機ではなく、エントリー機扱いになってしまっていたことが、一部のD700ユーザーをがっかりさせた原因だったというわけです。

もっともまずかったのは型番です。

もし、このD750がD700番台ではなく、D610の後継機、D620あたりを名乗って登場した製品であれば、さほど批判されることはなかったでしょう。むしろ、D610から言えば順当に機能・性能面がアップしていますので、歓迎されたことと思います。

D750を名乗ってしまったら、そりゃあD700ユーザーは期待するというものですよね。ましてや、6年も待たされたのですから。

……とはいえ、別に噂に関してはニコンが発表したわけではなく、我々が勝手に流れてきたリーク情報に一喜一憂していただけなので、ニコンは何も悪くないのですけどね。

現在では、D750にがっかりしたユーザーの中にも「冷静に考えるとD750いいじゃん」という人が出てきたりして、批判一辺倒というよりは賛否両論という雰囲気になっています。

 

……さて、実はもうひとつの憶測が一部ユーザーの間で流れています。ここから先は基本的に何の根拠もない妄想ということで読み飛ばしてください。

D750は、本当はD610だったのではないかという説

ここで思い出していただきたいのが、先ほどのD600の話です。

センサーにダストが付着するという不具合が起きたD610ですが、翌年にはほとんど同じスペックのD610が登場し、ダスト問題は収束しています。

……もし、このD610がダスト問題を処理するために登場したイレギュラーなモデルだったとしたら?

本来のD600の後継機は、別に開発されていた可能性はないでしょうか。

D600が登場したのが2012年。ニコンのフルサイズ機は約2年でモデルチェンジすることが多いので、本来のD600後継機は、2014年に登場する可能性が高かったとは考えられないでしょうか。

しかし、想定外の事態によりD610を早急に出さざるを得なくなった結果、本来開発していたD600の後継機をどのラインで出すのか、という話になり……。

 

という妄想のお話でした。

 

なお、自分はD750に関してはニコンプラザですでに触ってきましたが、そういった諸事情を考えずにフラットな気持ちで触ってみると、非常にバランスのとれた万能機に仕上がっているという印象です。

たしかにボディはD600系であり、D810よりは明らかに下のラインに位置づけられたモデルだと思いますが、これまでよりも薄く軽くなったボディに、小気味良い連写、深くなって握りやすくなったグリップ、個人的にはあまり使わないけど俄然早くなったライブビューとチルト液晶、24-120mm F4という絶妙なレンズが付いたキットなど、かなり魅力ある製品だと思いました。

このあたりは、できればまた日を改めてレビューしていきたいと思います。

*1:ただし最近は2社の戦略にズレが見られるようになりました。たとえばニコンD810のような高画素機はキヤノンからは発売されていません