コメモ。

日記。メモ。備忘録。

「思い出のマーニー」感想

一足先にスタジオジブリ最新作「思い出のマーニー」を観てきましたので、感想などを書いてみようかと思います。

致命的なネタバレはしないつもりですが、ある程度内容に触れないと書けないので、予備知識なしで見たい方はご注意ください。

 

 

「思い出のマーニー」は原作がイギリスの児童文学です。心を閉ざした少女アンナが療養先で見つけた古い屋敷に住む少女マーニーと仲良くなるのですが、町の人はマーニーのことを誰も知らなくて――というお話。

映画では舞台を北海道(!)に移し、主人公のアンナは杏奈と名前を変え、時代も現代になっているようです。なぜ日本に? と疑問に思ったのですが、過去の雑誌のインタビューを読むと、どうやら「今の観客がヨーロッパが舞台の物語に関心が薄い」からだとか。個人的にはぜんぜんラピュタみたいなやつをやってくれて構わないのですが、業界的にはそういう判断なんですかね。そういえばアリエッティも日本が舞台でしたね。

僕は原作を読んでいないのですが、映画の方も舞台を現代日本に移しただけで大まかな流れはだいたい同じみたいです。

まず「思い出のマーニー」の良い点から。

ひとつは、舞台が現代日本になったことです。これにより、心を閉ざした少女・杏奈の存在がグッと身近なものになっています。イギリスの少女でも問題はないのですが、見た人が感情移入できるのはやはり現代の日本に生きる女の子でしょう。

もう一つは、絵のクオリティです。宮崎監督という巨匠が引退し、作品にも一切関わっていないということで心配していたのですが、さすがは米林監督。北海道の美しい背景やキャラクターの表情など、綺麗なだけでなくしっかり「ジブリらしさ」を受け継いでいるように思いました。

声優もよかったですね。宮崎監督がいなくなっても相変わらず声優は俳優ばかり使っているのですが、今回は上手な人ばかりで違和感もありませんでした。今までの宮崎監督の方針を受け継ぎつつも、うまくアップデートした感じですね。さすが、米林監督はわかってるなぁと。

次にダメだった点。

これは良い点の裏返しになるのですが、現代日本を舞台にしたことで、物語に様々な歪みが生じてしまっている気がしました。映画序盤でマーニーが突然登場し、そのまま杏奈と仲良くなって話が進んでいくのですが、北海道の古い洋館に金髪の少女がいることの説明が一切なく、杏奈もまったく疑問を持たずに仲良くなっていくので、どうにも置いてきぼりになってしまいました。

いや、別にすぐ仲良くなってもいいんですけど、納得のいく描写が欲しいんですよね。たとえばラピュタではパズーとシータが出会ってすぐ打ち解けますが、あれはパズーの性格とか、いろんなドタバタがあったからこそで、見ている方としても自然に受け入れられます。でもマーニーと杏奈にはそれがない。強いて言えばマーニーはすごく明るいのでパズー的ではあるのですが、正体も目的も不明なのにやけに明るくて親切なので、なんかちょっと怖いんですよね。今にもマルチの勧誘とかしてきそうな不気味さというか。

また、ネタバレになるので詳しくは書きませんが、杏奈が心を閉ざしているのにはちょっとした理由があって、それが物語のラストに明かされます。が、この理由が「うーん」という感じ。なんというか、わからなくはないんだけど、「それかー……」っていう。ここまで引っ張っといてそれかーみたいな。いや、本人にとっては重大な問題なんでしょうけど、物語終盤に明かすほどのものでもないというか。肩透かしというか。

で、この映画でもっとも致命的だったのが、杏奈の性格。もうね、最初から最後まで主人公の杏奈にイライラさせられます。

たぶん、この映画って杏奈の人間的成長を描いた物語なんだと思いますが、そもそもがダメすぎてまったく共感できないんですよね。

特にイラッとさせられたのは、療養先で出会ったぽっちゃりな女の子に「太っちょ豚!」という言葉を投げつけて走り去るシーンですね。これね、ぽっちゃりな女の子はぜんぜん悪くないんですよ。むしろ杏奈にすごく気を遣ってくれる超良い女の子なわけ。そんな女の子に向かって「太っちょ豚」ですからね。一応、この言葉が出てしまった理由があるにはあるんですが、それもまったく納得いかないもので、杏奈の捻くれた性格だけが強調されてしまったシーンでした。

しかもその後、家に戻った杏奈を預かり先の夫婦が叱らないんですよね。事情を知った後でも、「太っちょ豚はまずかったな(笑)」とか言って笑い合ってんの。いやいやいや、そこは叱らないとダメでしょ! この夫婦、基本的にはすごく人間ができているという設定なので、つまりこれは「太っちょ豚」という言葉自体にはそれほど問題はないという描かれ方なんだなと思って、さらに嫌な気分になりました。

というか、この映画、杏奈以外に嫌な人が一人もいないので、基本的に杏奈の性格の悪さだけが目立つんですよね。これが最初から最後まで続くもんだから、もうイライラMAXですよ。イライラさせられても、最後にスカッとそれを吹き飛ばしてくれればいいのですが、そういうわけでもないし……。

明らかに大人向けの映画だと思うのですが(子どもには退屈な映画だと思う)、よほど寛容な大人じゃないと杏奈はちょっと受け入れがたいんじゃないかなと思いました。それとも僕の心が狭いだけか? もし原作からしてこんな感じなんだったら、そもそも原作が自分と合わないんだろうなと思います。

あと、絵は綺麗なのですが、カメラワークを含む演出がちょっと単調な気がしました。冒険活劇じゃないし、アクションシーンもないので、かなり難しい注文だとは思うのですが、それでもどこかにハッとさせられるシーンを一つくらいは入れてほしかったなぁと。たとえば宮崎監督の「風立ちぬ」は、個人的にはそんなに刺さらなかった作品なのですが、それでもいくつか強烈に印象に残っているシーンがあるんですよね。何でしょうね、セリフや演出の妙なのでしょうか。「思い出のマーニー」にも決め台詞みたいなのはあるし、力入れたんだろうなと感じる場面は出てくるのですが、どうもいまいち印象が薄いのは、演出と脚本が弱かったのかなと思いました。

そして、終盤にこの映画の謎が解ける場面があるのですが、ちょっと残念だったのは、謎をぜんぶセリフで語ってしまっていること。尺の問題もあると思うのですが、ものすごく急いで物語をたたんでいる感がありました。

ここまで書いといて何なんですが、そもそも「原作が映画化するのに向いていない作品だったんじゃないか」と思うんですよね。実際、米林監督も鈴木Pからこの話を持ちかけられたとき、一度断っているくらいですから。

そう考えると、むしろこの完成度までこぎつけた米林監督の手腕は褒められるべきかもしれません。ジブリスタッフと米林監督だからここまでやれたけど、もっと悲惨なことになっていてもおかしくない原作だと思います。

他にも、ダブルヒロインであることからの「アナと雪の女王」との比較とか、前半と後半でマーニーと杏奈の役回りが入れ替わっていることとか、いろいろ言いたいことはあるのですが、とりあえずこのへんで。

個人的な満足度は50/100点くらいですかね。米林監督にはもうちょっと映画化しやすい原作を提案してあげてください鈴木P!